風帯のお話し

一般的な三段表装では、一文字(いちもんじ)中廻(ちゅうまわし)、上下(天地)に3種類の裂地を用います。その中でも、一文字に一番上質な裂地を使います。そして、風帯(ふうたい)の表は一文字と同じ裂地、裏は上下と同じ裂地を使います。これを、一文字風帯と呼びます。下げるものを本式とし、これを垂風帯(さげふうたい)と呼びます。また、上下に貼り付けた風帯を押風帯(おしふうたい)と呼びます。また、佛表装においては、風帯に中廻と同じ裂地を使います。これを、中風帯または中廻風帯と呼んでいます。

元祖、中国では風帯のことを「驚燕(きょうえん)」と呼んでいます。風帯の起源は、燕を驚かせて表具に近寄らないようにするためのものだったということです。3年ほど前に、店に訪ねてきた中国人表具師の方に聞きましたが、現在の中国では表具に「驚燕」を付けないそうです。付け方のわかる表具師があまり居ないようです。現在、中国では「京都風の表装仕立」が流行りだそうで、風帯を付けた表装の方がはるかに高く売れると話してくれました。彼とのコミニュケーションは漢字の筆談と彼の持参した翻訳機でした。

その訪ねてきた彼に寸法間違いの不要な風帯2、3本渡し、解きながら縫い方をマスターすれば良いと伝えました。その2ヶ月後、再来日した時に、かなり上等の紹興酒と烏龍茶、お菓子、印鑑をお土産に持参し、通訳を連れ、自分の表具を見て欲しいと風帯の付いた三段表装を持って、嬉しそうに訪ねて来ました。見事に縫い方をマスターしたようでした。それからも、京都に来る度にわざわざ自分の作品を見せに来てくれます。不要な風帯の2、3本でたくさんのお土産を頂き、恐縮の限りです。コロナ禍が終われば、またいつか再会できる日が来るかも知れません。中国で良い表具を作っていることだと思います。自分も負けないように励みます。

風帯は一般的には、「くけ縫い」をします。この縫い方は、表にも裏にも縫い糸が出ません。むっくりと柔らく仕上げられるのが特徴です。(写真:左)

風帯がくけ終われば、2、3日重しをかけて平滑にします。その後、露花糸(つゆいと)(写真:中)を縫付けて完成です。(写真:右)

尚仙堂ぴーちゃん

昔、風帯を付ける作業が苦手で大嫌いでした。先代が急逝した時に、一番困ったのがこの作業。苦手だからと言い訳できる立場では無くなり、必死になって稽古しました。苦労の甲斐あって、今はどちらかというと得意技になりました。