額装 本紙修理


額は長い間、温度差や乾湿に耐えてきましたが、経年劣化により亀裂が生じました。本紙全体に煤汚れが確認できます(写真:左)
- 墨絵の部分を膠水、布海苔で保護をし、亀裂部分に細心の注意をして、清水で煤汚れを落としました。
- 亀裂部分を慎重に修正し、安全に作業を行うために薄い布海苔で3層の表打ち(レイヨン紙)を行いました。
- 全ての裏打紙を除去、亀裂部分には補紙をあて、良質の薄美濃紙で 肌裏打(1回目の裏打)を行いました。
- 一度完全に乾燥させてから増裏打(2回目の裏打)を行い、仮張にかけて乾燥させています(写真:右)
亀裂は目立たなくなり、本紙に透明感と輝きが戻ったと思います。
掛け軸 本紙洗い(シミ抜き)


掛け軸の本紙には、煤汚れとカビが原因と見られるシミが本紙全体に見られます(写真:左)

- 作業前に、墨と朱肉部分を洗いに耐えられるように、膠水等で定着させます。
- 本紙裏面にはレイヨン紙、表面は洗いネットで養生して、清水を噴霧給水させ、丁寧に煤汚れを落とします。
- 煤汚れを出した後、漂白剤(本紙の状態に適したもの)にてシミを除去し、殺菌を行います。
- シミを除去した後は、漂白剤成分が残らないように充分な還元処理を行います。

- 洗い作業終了後、慎重に旧肌裏紙を除去します。本紙の状態を確認して、湿式で肌裏紙除去を行いました。
- 旧肌裏紙除去後、一度完全に乾燥させてから、良質の薄美濃紙で肌裏打(1回目の裏打ち)を行います。
- 肌裏打後も一度完全に乾燥させてから、増裏打(2回目の裏打ち)を行い仮張にかけます。(写真:上部右)
- 本紙のくすみは取れ、シミを除去できました。画仙紙の白さと透明感を取り戻しました。墨、朱肉等に変色・退色は生じておりません。
今後の表装作業も随時アップしていきたいと思います。
一行書の内容は「萬古清風」、書の内容は「古きにも新しきにも全ての時空にあまねく清風が吹く」という意味です。揮毫は妙心寺元管長猊下 山田 無文 老師、本紙寸法は丸表装仕立に合うサイズで揮毫されています。それらを、念頭においてオンラインシミュレーターでイメージしてみます。
取り合わせ
最終的に候補を3種類に絞り、そこから選択しました。結果は、3番目の取り合わせにします。理由は、濃い色で本紙が引き締まり、紋様も邪魔にならず無地裂のように見える方が映りが良いと判断しました。
付け廻しを終え、総裏打ち
付け廻しを終えたら、総裏打ちです。総裏後には素干しで自然に乾燥させます。当然、ボリボリの状態に乾きます。実は、これが非常に重要なのだと思います。裏打ちで延びた表具を自然に縮ませることで、将来の狂いを抑えます。
それを、また湿し、巻いて、湿りを全体に均一に馴染ませませ、程良いタイミングで巻きが狂わないように定規を当て仮張りにかけます。
最初は、ボカボカの表具が乾くと徐々に真っ直ぐになって行きます。その様子を祈るような気持ちで見守っています。真っ直ぐになったことを確認したら、総裏打ちは完了となります。
返し張りまで、約1ヶ月半程は表向きに仮張りしておきます。その後、裏ずりをして、今度は裏向きに仮張りします。まだまだ、作業は続きます。
いよいよ仕上作業
祈るような気持ちで表具を仮張から外します。再度、裏ずりをして耳すきをします。上軸を取り付け、釻を打ち、紐を付けます。最後に下軸を付けて完成となります。
完成しました
京都表具協同組合主催 第66回表美展(表装美術展覧会)に出品する予定でしたが、残念ながらコロナ禍で中止となりました。
本紙のシミは取れ、透明感を取り戻しました。長い時間をかけてようやく完成させた一品。感無量です。

京都表具協同組合公式 YouTubeチャンネル「京表具」で紹介されています。よかったらご覧ください。