京都市下京区、東本願寺の濠に沿った静かな通りに面した町屋に「表具師 田中尚仙堂」という古い看板が掲げられています。創業は江戸末期。130年以上続く工房は、現在、五代当主の田中 浩が受け継ぎ、伝統的な京表具の技を現在に伝えています。
表具師は今も、昔も、書画の知識や約束ごと、茶の湯や寺社の世界に精通する見識や、表具に使う裂地や紙を吟味して見きわめる優れた感性が求められます。また書画の修復や書画を保護するための裏打ちなどの高い技術が求められます。
大切なこと
表具の仕事の中で最も重要なものは「取り合わせ」です。書や画などの本紙(ほんし)の持つ意味や意匠に合わせて、裂地の配色や寸法、割り付けなどを選定する作業で、作者や作風、作品の意図、時代、季節感などあらゆる方向から考えて、「取り合わせ」を決めていきます。表具は華美を求めるものではありません。何よりも全体の調和が取れていて、本紙と裂地に心地よい一体感があり、見るだけで気持ちすっと清々しくなる。それが優れた表具であり、尚仙堂の当主が代々、守り続けてきた矜恃です。
当主の思い
大学卒業後、父(四代当主:幸太郎)のもとで修行を重ねてきましたが、ちょうど十年経った頃に父が急逝しました。父を亡くすことと当主を継ぐことが同時に起こり、それからは無我夢中でやってきました。
父の教えの中で大事にしていることは、「あくまでも主役は本紙」であるということです。本紙を引き立てる取り合わせを考え、後世に修復が可能な仕立てとし、いつ掛けても床の間にスッキリと美しく飾ることができる、そんな表具に仕立てることが表具師の仕事と言えます。
本紙の作者の名は残りますが、表具師の名が残ることはありません。でも、柔らかく巻きほどかれ、床の間にスッキリと掛かった一幅の表具で観る人に感動を与えたい、そんな思いで一幅、一幅の表具の仕事に取り組んで行きたいと考えています。
掛け軸の製作工程
人生の大半を表具師として生きてきました。迷うこともありますし、まだまだです。でも仕事は大好きです。