取り合わせ帳

「京表具愉しむ」webサイト ヘッダー画像の取り合わせ帳です。私の曽祖父「 亀次郎」が明治・大正時代に使っていたものです。当然、カラー写真などは普及していませんでしたので、このような取り合わせ帳を使って、お客様の好みを伺っていたようです。電話もまだ一般家庭に普及していない時代のお客様とのコミュニケーションツールとして活用されていたのだと思います。

 私は、Windows95が発表された1995年に初めてパソコン(アップル)を買いました。丁度、インターネット元年と呼ばれた頃です。その当時は、電話線にモデムを付けて電話料金を気にしながらwebを愉しんでいた記憶があります。しかも、今のような光回線などとは程遠い超低速回線でした。同時に電子メールも始めましたが、携帯電話もそれほど普及していませんでしたし、携帯電話にまだメール機能が無かったので、上手く使いこなすことはできませんでした。

 そんな時、友人のデザイナーにこの「取り合わせ帳」を見せ、こんな風にCGで表具の取り合わせができないか? 尋ねたことがあります。即座に「簡単にできるよ。」との返事。それから、そのデザイナーにPhotoshopを学ぶために何度も訪ねて無料で講習をしてもらいました。この時の発想が、後の「掛け軸オンラインシミュレーター」の原点です。

 しかし、残念なことに当時のコンピューターの画像処理能力では時間がかかり、とても満足できる作業効率とは言えませんでした。メモリー容量も大体が64〜128MBとかの時代です。メモリーもめちゃくちゃ高価で簡単に買うことができませんでした。家庭用コンピューターの画像処理能力が上がるまで待つしかないと悟りました。その後、自分では解決できない状態が何年も続きます。

 幸運は、ある日突然にやってきました。もう諦めかけていたところに、京都表具協同組合事務局から1通の電子メールが届きました。京都府コロナ社会対応ビジネスモデル創造事業補助金の公募のお知らせでした。これは、「使えるかも!」と思い、電話を掛けまくりました。また表具師の先輩にもあちらこちらに相談してもらって、おかげで事業化できる確信を得ることができました。それからは、長い待ち時間を解消するべく、必死になって「掛け軸オンラインシミュレーター」の事業計画書を作成、多くの方のご協力を得て、京都府に事業採択していただくことができました。

 完成した令和時代の「掛け軸オンラインシミュレーター」も明治・大正期の「取り合わせ帳」も同じお客様とのコミュニケーションツールです。100年以上経過しても「取り合わせ」に対する考え方は、本質的には何も変わっていないのだと思います。道具は新しくなっても、同じことを目指してる。正に、これが不易流行という気がします。

取り合わせ帳の裏面

裏面は、写真が無い時代にモンタージュ的に使われた頂相用の顔が50種類以上あります。輪郭は何番、鼻は何番を少し高く、頭の形は? という感じで使ったのだと思います。今でも、普通に通用する気がします。